ユーザー事例
顧客と共に歩むクリーンな未来:JMPによる寿命予測で再エネ用蓄電池の最適管理を提案

チャレンジ
エナジーウィズ株式会社は、蓄電池の製造・販売から、顧客への運用提案までをトータルに行う「提案型蓄電ソリューション企業」であり、同社が取り扱う蓄電池は、再生可能エネルギーの効率的な管理に大きく貢献している。だが、蓄電池を活用する再エネ事業はまだ歴史が浅く、潤沢な過去の実例やアーカイブデータに基づく分析は難しいのが実情だった。こうした背景から、顧客に蓄電池の効率的な運用を提案するために統計的手法を活用する必要性が生じた。
解決策
風力発電で使用される蓄電池の「運用データ」と「点検データ」をJMPで解析。探索的データ分析(EDA)を進め、電池の寿命推定や異常劣化の検知を実施。
結果
分析から得られた知見をもとに顧客に適切な蓄電池の使用方法を提案し、電池寿命を延ばすことが可能に。未活用のデータを分析することで、顧客との信頼を築き、製品の満足度を高めるきっかけになった。
近年、気候変動対策や持続可能な社会の実現に対する関心が高まるなかで、再生可能エネルギーの効果的な運用に蓄電池を活用する場面が増えてきている。
再生可能エネルギーの代表格といえば風力や太陽光だが、これらは時間帯や天候によって左右され、電力生産の変動の波が大きい。そのため、ピーク時に生じた余剰電力を蓄電し、電力の需給バランスを調整する手段として、蓄電技術の向上とその導入が重要視されている。
このような再エネ用蓄電池の製造・販売において豊富な実績とノウハウを有するのが、エナジーウィズ株式会社だ(前身:昭和電工マテリアルズ株式会社(現株式会社レゾナック)の蓄電デバイス・システム事業部門)。
同社では最近非常に興味深い取り組みが行われている。これまで社内外に蓄積されるままになっていたデータを統計ツールで分析し、顧客それぞれに最適な提案を行うことで、顧客ニーズに合った総合的なソリューションを提案するビジネスモデルへの転換を進めるというものだ。
データを有効活用し、品質分析から顧客提案に至るまでを支える「武器」として機能させる。こうした「攻めの品質」とでも呼ぶべきデータ活用が、どのように実施され、「分析文化」が社内に定着するに至ったのか、この点を、同社 DX統括部 DX・データ活用推進グループ 部長代理 長谷川 馨氏、同 主任 島田 康平氏に伺った。
「品質改善というテーマに取り組む際には、データの分析・活用が必須です。そこから『攻めの品質』の姿勢が生まれました」
エナジーウィズ株式会社 DX統括部 DX・データ活用推進グループ 主任 島田 康平氏
電池の寿命をJMPで予測 -データ探索がもたらす価値ある提案-
「蓄電池の製造について長い歴史のある当社ですが、再生可能エネルギーの分野で蓄電池が使用され始めたのは、この20年程です。その一方で、蓄電池そのものの寿命は非常に長いため、現在は『一周目』や『二周目』の蓄電池が寿命を迎えて、ようやくそれらのデータが集まり始めたタイミングになっています」と長谷川氏。
同氏は数年前から分析にJMPを使っており、その当時を次のように振り返った。
「当社には大量の顧客データや試験データの蓄積があるのですが、それを分析する専門のデータサイエンティストはいませんでした。そのため、分析はほとんど外注に頼っていました。ですが、既に社内に導入されていたJMPを使えば、これらのデータの分析を自分たちで行えるはずです。そこで私は、このツールで多角的視点からデータを分析しようと思い立ちました」と長谷川氏。
その一例として、同氏は近年取り組んだ2種類のデータ解析を挙げた。どちらも風力発電所で使われている鉛蓄電池に関するもので、電池の状態を分刻みに記録した「運用データ」と、年に数回行う電池の点検結果をまとめた「定期点検データ」の解析例だ。
まず運用データについて、同氏がこれを「放電」「充電」「休止」などに分類してJMPで重回帰分析を進めたところ、電池の劣化に関係しそうな運用環境のパターンが見えてきた。具体的には、充電時において通常とは異なるデータが見つかり、それらをJMPで探索するうちに電池の劣化が進んだ運用環境ほど、そうした異常が多く見られる傾向にあることが分かった。
このような運用データの解析から、結果的に電池の寿命を予測できるようになり、どのような使い方をすれば電池を長持ちさせられるかについて顧客に提案することが可能になった。
他方、定期点検データでは、正常品と劣化品それぞれの傾向を把握するため、似た傾向のデータをグループ化して分類する機械学習の手法、「階層クラスタリング」を用いて分析した。
実際に長谷川氏が幾つかのデータを確認してみると、劣化が進んだ電池は半年ほど前から異常な兆候を見せる傾向にあることが分かった。そこで、JMPの「階層型クラスター分析」を使い、電池全数の傾向を自動で分類。劣化品やそれと傾向の似た電池を見つけることで、従来は予測困難であった急な劣化を事前に予測できるようになった。
「階層クラスター分析」の結果レポート (左)も、テーブル(⇒)やその他の分析 [例: 分析→一変量の分布] とインタラクティブに連携する (データはデモ用に用意したもの)
※これらの長谷川氏による分析の詳細については「Energywith Technical Report 第2号/2024.05 (P.11-14)」をご参照ください。
「JMPによる分析をもとに、お客様それぞれに合った最適な使用方法を提案することで、電池の寿命を延ばすことが可能になりました」
エナジーウィズ株式会社 DX統括部 DX・データ活用推進グループ 部長代理 長谷川 馨氏
データをすばやく概観、探索、そして実りあるインサイトまでJMPで一直線
長谷川氏による前述の解析のように、データを探索し、新たな「気づき」を得てさらに分析を進め、最終的に顧客への有益な提案へと結実する流れは、企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するうえで、それを支える重要なデータ分析アプローチの1つとなるものだ。
とはいえ、単にグラフを描くだけであれば、Microsoft ExcelやPythonなど、世の中にはさまざまなツールが存在する。そのなかで、なぜJMPが選ばれているのか。JMPの優位的な機能について長谷川氏、島田氏の両氏に伺った。
「JMPが特に優れているのは、データテーブル、グラフ、そして、レポートがインタラクティブに連携する点です」と長谷川氏。
インタラクティブに連携するグラフとレポート、テーブル
(上: ヒストグラム[分析→一変量の分布]、左下: 散布図行列[グラフ→散布図行列]、右下: もとのデータテーブル、データはデモ用に用意したもの)
JMPでは、グラフ上で特定のデータ点を選択すれば、データテーブル上でもハイライトされるため、すぐにその詳細の検討が可能になる。また、データの相関を視覚的に把握し、偏りを可視化することで、データの全体像を早い段階で理解して分析を進めることもできる。
「本格的な分析に入る前に、データのあらましをJMPで確認し、そこから詳細な分析へと進めていく。そのステップがJMPは極めて速い。さらに、可視化によって『気づき』が生まれることも非常に多いのです」と長谷川氏。
たとえば、変数間にどのような相関関係にあるのかをとりあえず調べたい時には、JMPの「多変量の相関」プラットフォームから、散布図行列を用いて変数間の関係性を確認し、データのばらつきや外れ値を特定するといった具合だ。
また、「分析→一変量の分布」や「分析→二変量の関係」プラットフォームで「By 変数」を指定し、グループごとに要約することで、数万から数千万行の大量のデータを効率的に分析できる。この点も非常に便利だと同氏は指摘する。
「(Microsoft)Excelでは、何万行もの大きなデータを扱うのは難しいですが、JMPでは多角的で柔軟なグラフ分析が可能です。」
長谷川氏
「『一変量の分布』で素早くヒストグラムを作成し、さらに『By 変数』を用いると、月ごとや製品ごとのヒストグラムを一括で描くことができます。ある変数の集団がヒストグラムのどの辺りに位置しているのかを、まず初めに確認することも頻繁にあります」と長谷川氏。

左:エナジーウィズ株式会社 DX統括部 DX・データ活用推進グループ 主任 島田 康平氏
右:同社 DX統括部 DX・データ活用推進グループ 部長代理 長谷川 馨氏
また、本格的な分析に入る前に、「By変数」でグループに分類したグラフから異常値を見つけ、工場側に確認をとることもあるようだ。
この点について、島田氏は「同じ製品で同じ試験をしているのに、グラフで可視化すると結果が大きく異なることがあります。工場側に確認すると、測定の順序が違っていたり、登録ミスが原因であったりしました。JMPは膨大なデータを素早く可視化してチェックすることができるので重宝しています」と説明する。
「(JMPならマウスの)ドラッグアンドドロップでパッとグラフを作れます。まず皆さんに使ってみて欲しいなと思います。そうすると、出来ることが無限に広がっていくはずです」
島田氏
分析文化が社内に広がり、次の時代のビジネスモデルにつながる
「データを武器に」というフレーズはよく使われるが、どれほど優れた武器でも、それを使いこなせる人が少なければ、戦力としては心もとない。データも同様で、社内にプログラミングや統計に詳しく、高度な分析ができる人が数人程度いたとしても、それだけでは組織全体の分析力の高まりは期待できない。
そのため、どの業界においても、データ分析人財を社内で広く育成することが急務になっている。限られた数しかいない熟練者の「勘と経験」に頼っていたのがひと昔前なら、現在は彼らの知を社内の共有財として、データ駆動型の社風へと転換させていくことが、より強靭な組織を構築するうえで必須だからだ。
この点、エナジーウィズでは、社内のデータサイエンス教育にJMPを活用し、従業員のデータリテラシー向上を強力に推進している。具体的には、「ブロンズ級」と「シルバー級」の2つに分かれる社内教育プログラムを用意し、データリテラシーに関する講義のほか、データ活用事例の発表会などを定期的に開催している。
「データ活用事例の発表会は、データサイエンスやDXといったテーマで定期的に開催されており、役員も含む100名以上が参加しています」と、社内教育の盛り上がりを長谷川氏は指摘する。発表会という場を設けることで、社員から役員まで、社内の幅広い層がデータサイエンス教育の意義や重要性を強く意識するようになり、ひいては実践的なデータ分析文化を重視する社風の醸成につながっている。

「(社内改革を進めるにあたり)統計解析ツール活用の外部専門家の支援の下、まずは「品質」改善のテーマから取り組みました。大きな歯車を廻すには最初に大きな力が必要ですが、廻り始めると加速度的に速度を増します」
エナジーウィズ株式会社 代表取締役社長 吉田 誠人氏
また、社内教育を円滑かつ効果的に進めるためには、誰にとっても取り組みやすいカリキュラムが欠かせない。この点について、同社ではJMPによる無料オンライン統計コース「STIPS(製造業における問題解決のための統計的思考)」を教材として活用し、小テストや演習などを通じて統計的手法を実践的に学べる機会を提供している。
こうしたさまざまな試みが功を奏してか、エナジーウィズではブロンズ級の資格取得者が、国内の従業員(直接製造員を除く)の約4割に達しており、社内における分析文化の定着が着実に進んでいることがうかがえる。
「分析文化のすそ野を社内でどのように広げていくか」は、多くの業界に共通する課題となっているが、エナジーウィズではおよそ40%もの社員がデータ分析や統計の基礎を習得しており、それらを共通言語として業務改善について議論できる土壌が社内に育まれている。
「大きな歯車を廻すには最初に大きな力が必要ですが、廻り始めると加速度的に速度を増します」とは、同社 代表取締役社長 吉田 誠人氏の言葉であり、その言葉どおり、同社では今まさに「大きな歯車」が廻り始める音が、力強く響き渡っているようであった。