ユーザー事例

「データの民主化」でもの創りの
「知恵」を全社の共有知へ
-TOTOが実践する「良品と均質」の新たな探求

歩留まり改善の成果を全社的なデータ革新へと繋ぐ。JMPを用いた「探索的分析」と実践的教育が育むデータドリブンな分析文化

チャレンジ

天然原料を用いる衛生陶器の製造は、乾燥・焼成工程で約13%もの収縮を伴う。製品の大型化・複雑化が進むなか、いかに「均質」な高品質を維持し、熟練の匠による「暗黙知」を「形式知」化して次世代へ継承するか。100年を超える歴史を持つTOTO株式会社において、これは同社のもの創りの根幹をなす重要な課題であった。

解決策

先進的な滋賀工場の製造データに対し、JMPを用いた「探索的データ分析」を導入。衛生陶器工場初のバーコードシステム導入等により実現した高歩留まりを深化させ、グラフビルダーによる視覚的検証や、パーティション、クラスター分析等を駆使して「良品条件」を数値化し、直行率や歩留まりの向上を実現した。また、2年間にわたる「社内留学制度」の基礎教育にJMPを採用。全社的なデータサイエンススキルの底上げを図った。

結果

滋賀工場にて当時の過去最高歩留まりを更新。この成果をもとに組織横断的なプロジェクト組織(現「データ革新推進室」)が発足した。現在では技術部門のみならず、販売、サプライチェーンなど全社規模でデータに基づく意思決定を行う「データドリブンな文化」が強固に根付きつつある。

100年を超えて受け継がれる「良品と均質」 -「匠の技術」を「形式知」へ

1917年の創立以来、水まわりを中心とした豊かで快適な生活文化を社会に広めることを続けてきたTOTO株式会社(以下、TOTO)。同社の社是にある「良品と均質」という言葉には、単に優れた製品を作るだけでなく、世界中のお客様へ常に変わらぬ高品質を届けるという、製造業としての確固たる矜持が込められている。

この「均質」という言葉が持つ重みは、同社の原点である「衛生陶器(便器・洗面器など)」の製造プロセスを知ることで、より鮮明に理解できる。「衛生陶器は、20種類以上の土や石といった天然原料と水を混ぜ合わせた『泥漿(でいしょう)』を原材料とする、いわば大型の焼き物です。成形から乾燥、焼成を経て完成するまでに、およそ13%もの収縮があります」と語るのは、同社 技術本部 技術統括部 上席技師の上田忠雄氏だ。

TOTO株式会社 技術本部 技術統括部 上席技師

上田 忠雄 氏(社是が記された陶板を手に)

原料の特性は一定ではなく、季節や天候によって乾燥室や焼成窯の状態も日々変化する。成形時のサイズから大きく収縮しながら完成へと向かうプロセスの中で、いかに「均質」かつ「高品質」を保つか。この困難な課題に向き合いながら、同社は100年以上にわたり、職人たちの経験と勘、すなわち「匠の技術」をDNAとして受け継いできた。

しかし、こうした経験や勘は属人的な性質が強く、次世代への継承が容易ではない。データ分析や社内教育を活用して、これらの「暗黙知」を「形式知」へと変換し、確かな技術伝承を実現する――。この次世代の「もの創り」への挑戦は、同社の最新鋭拠点である滋賀工場から始まった。

燃焼効率の高いセラミックファイバー窯

滋賀工場から始まった、データ活用の転換点

TOTOのもの創りにおけるデータ活用の転換点となったのは、2012年に稼働を開始した滋賀工場の新棟であった。この工場は、成形工程から出荷までに1個体あたり500項目近い製造・検査データが自動蓄積される、当時としては極めて先進的な「データ収集基盤」を備えていた。

上田氏はこの基盤を活用し、製造条件と検査結果を紐づけてデータサイエンスのアプローチを適用することで、歩留まりや直行率をさらなる高みへ引き上げるための企画書を作成した。

当時、最新鋭の滋賀工場は既に高い歩留まりを維持しており、社内には「これ以上の改善は難しいのではないか」という声もあった。しかし、同社の衛陶生産本部や滋賀工場の部門経営層はこの企画に対し、目先の改善を超えた以下の「3つの大きな期待」を寄せ、滋賀工場でのデータ活用プロジェクトが本格的に始動した。

  1. 技術伝承を目的とした「暗黙知の形式知化」

    国内では団塊の世代が定年を迎え、海外では工場建設が進む中、職人が持つ「匠の技」を数値化し、若手や海外社員へ教育可能な知識へと変換・継承すること。

  2. 進化する製品への対応と「新たな知見の獲得」

    製品の大型化や内部構造の複雑化によって、より高い水準の製造技術が求められるなか、データ分析から「新たな良品条件」を発見して現場力をさらに引き上げること。

  3. データ分析の知見や文化を他工場へ展開

    滋賀工場で培った知見・文化をTOTOグループ全体の製造拠点へ波及させること。

中長期的な全社への波及効果を見据え、滋賀工場におけるデータ活用の挑戦がスタートしたのである。

JMPとBIツールの両輪運用:「データとの対話」が導いた過去最高歩留まり

滋賀工場におけるデータ活用の試みで、上田氏ら活動メンバーが構築したのは「JMPによる良品条件の詳細分析」と「BIツールによる即時的な可視化」を両輪で回す体制であった。

現場側メンバーがBIツールでデータを可視化して問題点の特定や改善のスピードを高める一方で、上田氏らのチームはJMPを活用し、従来は見落とされていた不良発生パターンの特定や、良品条件の数値化といった深掘り分析を行った。

これらの活動が寄与し、滋賀工場の直行率や歩留まりは向上。製品形状が大型化・複雑化し製造難易度が上がるなか、当時の過去最高歩留まりをも更新したのである。「これは工場が培ってきた現場力とデータサイエンスの融合がもたらした成果です」と上田氏は語る。

上田氏はJMPのパワーユーザーとして、データの準備(結合・クレンジングなど)や多変量解析などを業務で実施している。なかでも同氏が「便利で一番頻度が高かった」と強調するのが、探索的分析の要となる「グラフビルダー」だ。

より深い探索的分析を可能にするJMPの「グラフビルダー」

上田氏がグラフビルダーを「一番頻度高く活用した」と語る背景には、単なるグラフ作成を超えた、探索的データ分析における圧倒的な使い勝手の良さがある。

グラフビルダーによる分析例(※データや作成されたグラフは本文とは無関係です)

「例えば、分析対象となる数値(説明変数)を『グループX』というゾーンへ配置します。すると、値の小さい方から順に、各グループのデータ数がほぼ均等になるように区切られた棒グラフや箱ひげ図が作成されます。これにより、データの全体的な傾向が非常に掴みやすくなるのです」と上田氏は解説する。

このアプローチにより、結果(目的変数)を小さくしたいときに、数値は大きいほうが良いのか小さいほうが良いのかといった傾向だけでなく、段階的に変化する閾(しきい)値の存在や、中央付近に存在する最適範囲を視覚的に検証できる。さらに、製品種別や曜日といったカテゴリ変数を「グループY」に追加すれば、属性ごとの傾向の差異も瞬時に比較可能だ。

「グラフビルダーで分析の『アタリ』をつけた後、さらに深い解析へと移行します。線形な関係が見て取れれば『モデルのあてはめ』を用いて複数変数の影響を同時に精査し、閾値や最適範囲があれば『パーティション』を用いて具体的な数値を特定する。この一連の思考プロセスを中断することなくスムーズに実行できる点が、JMPの大きな魅力です」(上田氏)

洞察の質を高める高度な解析手法

さらに上田氏は、JMPの多様なプラットフォーム(分析機能)を使い分けることで、さまざまな製造データから多角的な知見を導き出している。主な活用手法は以下の通りだ。

JMPを共通言語とする「社内留学制度」:2年間の学びが高める社内の分析文化

滋賀工場での成功は、2019年に社内最高の栄誉である「TOTOビジネスマスターズ最優秀賞」受賞へとつながった。これを機に、データ活用の有用性が社内に広く認知され、2020年に「データ革新プロジェクト」が発足。上田氏はその課長として組織の立ち上げに携わった。

この組織の特徴の1つに、2年間にわたる「社内留学制度」がある。レストルームや浴室、セラミックといった事業部からだけでなく、現在では販売、サプライチェーン、メンテナンス、財務経理など、全社から多様な人材が集まり、データサイエンスを学んでいる。

この制度では、着任後3か月間で、まず基礎教育が行われる。「統計、プログラミング、BIツールなどと並び、JMPを使った分析手法の教育に時間をかけています。市販のJMP書籍も教材として活用し、操作を覚えながら多変量解析やグラフ作成を実体験してもらう。私たちにとってJMPは日常的に使うツールであり、共通言語なのです」と上田氏は教育の意義を語る。

この教育の成果は、既に多くの現場で花開いている。ある留学生は、製造品質を安定させるためにAIが最適な工程設定値をレコメンドし、それを作業者が最終判断して適用するという仕組みを構築し、社内の事例発表大会で金賞を受賞した。

このプロジェクトにおいて、AIに学習させるためのデータ加工などさまざまな場面で幅広くJMPが活用され、実用性の高い仕組みを構築することができた。帰任先部門のトップからは、「DX未経験だった社員が、2年間の留学を経て自部門のDX活動を牽引できるまでに成長した」と、その人材育成効果を絶賛する声が届いている。

伝統のDNAをデータで進化:品質への探求が到達する「次世代のもの創り」

上田氏が描くデータサイエンスの未来は、単なるスキルの習得にとどまらない。それは、組織全体の「データ分析文化」を醸成し、100年続くTOTOの品質への思いをより確固たるものにすることだ。

「データサイエンスは、業務のあらゆる場面で当たり前に活用されるべきアプローチです。不確実な環境だからこそ、経験や勘(KKD)に頼るのではなく、データから現実を直視し、データに基づいて仮説形成と意思決定を行う『データドリブン』な姿勢が重要になります」と上田氏は語る。

現場の匠が持つ「暗黙知」を、データによって「形式知」へと変換していくこと。それは、これまでの100年を支えた技術を共通言語で再定義し、次の100年へと確実に繋げるため「さらなる命を吹き込む」作業に他ならない。社員一人ひとりがデータを通じて語り合えるようになれば、部署間の連携は強化され、迅速かつ合理的な問題解決が可能な、より強靭な組織へと進化できる。

TOTOが目指す「良品と均質」。創立以来の品質への探求心は、今、統計解析ツールを媒介として、現場の知見を組織の「共有知」、そしてその先の「分析文化」へと昇華させつつある。

社員それぞれがデータという共通言語で語り合い、対話を積み重ねていく。その先にこそ、同社が追求し続ける「もの創り」の1つの理想があるのかもしれない。

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