ユーザー事例

田辺三菱製薬株式会社

JMPを活用し、QbD(Quality by Design)に基づく医薬品製剤開発を実施

田辺三菱製薬株式会社

チャレンジ製剤処方や製造方法を含めた総合的な製剤設計を検討し、複数の品質特性を最適化するために優れた統計解析ソフトが必要だった
解決策研究者はJMPによる統計結果をもとに、高品質な医薬品を安定的に供給できる開発・生産プロセスを構築している
結果口腔内崩壊錠における複数の品質特性を同時に最適化する各製造パラメータの値をJMPで算出し、QbDを実践。新薬の溶出率に対するDS(Design Space)の設定検討も可能になった

田辺三菱製薬株式会社(以下、田辺三菱製薬)は、医薬品の製剤開発研究、生産プロセスにおける品質改善にJMPを活用し、様々な成果を上げている。統計学の深い知識がなくても直感的に操作できるJMPは、研究者から広く受け入れられ、高品質な医薬品を安定的に供給できる開発・生産プロセスを構築する上で欠かせないツールとなっている。

研究者が負担なく使えるツール

田辺三菱製薬は、田辺製薬株式会社と株式会社三菱ウェルファーマが合併して2007年10月に誕生した医薬品メーカーだ。医療用医薬品を中心に、一般用医薬品などの製造・販売を通じて幅広い医療ニーズに対応している。関節リウマチ治療薬「レミケード」、経口脊髄小脳変性症治療剤「セレジスト」、アレルギー疾患治療剤「タリオン」、高血圧・狭心症・不整脈治療薬「メインテート」などが主力製品だ。

同社、(元)CMC本部 製剤研究所 髙垣 恵介氏は、「医薬品は長い年月をかけて有効性・安全性について検証され、厚生労働省の承認を経て市場に送り出されます。

基礎研究から非臨床試験、臨床試験、製造、承認審査を経て、新薬を世に送り出すまで9年から17年の長い歳月を要します。製剤研究所では、錠剤を中心に、カプセル剤、液剤などの製剤について、これらの製剤処方と製造方法を含めた総合的な製剤設計を検討し、錠剤硬度、崩壊性、溶出性といった複数の品質特性を最適化するための研究を行っています」と語る。

かつて製剤研究所では、過去に実績のある製剤処方・製造方法をベースに経験的判断を加え、その一部を改変するなどの方法で品質特性の最適化に取り組んできた。ツールは一般的な表計算ソフトウェアだった。髙垣氏は、「例えば、実験計画を基に製剤の品質に影響する数多くの因子や製造パラメータを体系的に調査し、品質が最も良くなるように因子や製造パラメータを同時に最適化する統計業務があります。そうした場面で今までのソフトウェアを使うのは限界でした。そこで新たな統計解析ツールの導入を検討することになったのです」と話す。


これからの製剤開発研究には統計学的なアプローチが不可欠です。新入社員には統計教育を義務づけ、各研究員が統計について自律的に学べる環境を整えていきたいです。

— 髙垣 恵介氏, (元)田辺三菱製薬株式会社, CMC本部 製剤研究所

JMPを使えばうまくいく

統計解析ツールの選定では、いくつかの製品を比較・検討した。最も重視したのは、統計やプログラミングに馴染みの薄い研究者でも直感的に操作できること。そのほか、解析結果の信頼性を担保し、新薬の承認申請における実績が豊富なこと、適用すべき統計手法を自動で判断してくれること、など複数の項目を評価し、JMPの導入を決めた。

運用開始後は、JMPを活用して研究実績を積み重ね、“JMPを使えば、知識や経験に加えて、統計学的に裏付けられた優れた成果を上げられる”という研究者の共通認識を形成することで定着化を促した。

まず行ったのが、既製品の溶出改善検討だ。錠剤の重要な品質特性である溶出率についてトレンド異常が起きた原因を追求するにあたりJMPによる解析を行った。具体的には、単変量解析を用いることで、様々な因子の中から溶出率に影響する因子を絞り込み、それらの因子に対して多変量の相関を調査。溶出率に影響を与える4つの因子を特定した。

髙垣氏は、「重回帰分析により、溶出率との相関が特に強いのは顆粒の平均粒子径と打錠圧であることを突き止めました。しかしながら、承認書に定められている規格(錠剤硬度、錠剤厚み)に相関する打錠圧の変更は困難でした。よって、顆粒の平均粒子径に着目し、JMPを使って溶出率との関係を解析した上で、粗大粒子が多く、微粉粒子が少なくなるように製造方法を組み直すことで溶出率を改善しました」と語る。

高品質な医薬品を開発・生産するために

製剤研究所では、JMPを活用して高品質な医薬品を開発・生産できる体制を整備することにも取り組んでいる。近年、医薬品は、有効性・安全性に関連づけられて製剤設計されていること、原料・工程パラメータの変動に対して頑健な処方と製造プロセスであることが求められている。具体的には、ICHQ8、Q9、Q10ガイドラインが提唱するQuality by Design(QbD)、DesignSpace(DS)などのコンセプトに基づく製剤開発・品質リスクマネジメントであり、製剤研究所ではこれを実践している。

QbDは、製品・製造工程において品質特性に影響を与える因子を網羅的に把握し、製品品質を製造工程で作り込む概念だ。これを満たせば、温湿度等の環境変動や原料の品質バラツキなどの制御不可因子に対しても、これらの影響を最小とする因子をコントロールすることで頑健な製剤を開発できる。DSは、入力変数 (原料の特性など)と工程パラメータの多次元の組み合わせと交互作用で、品質を確保することが立証されている空間を指す。

髙垣氏は、「QbDの一例としては、新製品である口腔内崩壊錠の混合・打錠工程の各製造パラメータを統計学的に設定しました。JMPで立案した実験計画により実験を開始し、得られたデータから、硬度、崩壊時間、打錠圧バラツキの品質特性を同時に最適化する各製造パラメータの値をJMPで効率的に導き出せました」と話す。

また、新薬である普通錠の溶出率に対するDSの設定検討も行った。具体的には、初期リスクアセスメント(PHA、FMEAなど)や分散分析を用い、溶出率に影響を与える主要な因子の絞り込みを実施。最終的に選ばれた原薬粒子径と顆粒の粒子径の2因子について応答曲面計画をデザインし、溶出率を測定した。髙垣氏は、「重回帰分析で求めた予測式を用いて等高線プロファイルを作成し、30分溶出率が80 %以上になる原薬粒子径と顆粒の粒子径の範囲をDSとして設定しました」と語る。

田辺三菱製薬は今後、統計学的手法を用いた課題解決力を養うための教育にも力を注いでいく。髙垣氏は、「これからの製剤開発研究には統計学的なアプローチが不可欠です。新入社員には統計教育を義務づけ、各研究員が統計について自律的に学べる環境を整えていきたいです」と話している。

※ 本事例に記載の内容は2019年4月時点のものです