兵庫県立大学

ビッグデータ時代におけるアンケート調査の意義・課題とJMPの役割
~調査票の設計からビッグデータ対応まで実践力が身につく講義~

チャレンジ社会システム工学の学問分野では、必然的にデータを扱うため、統計解析ツールが不可欠
解決策プログラミングすることなく、ほぼマウス操作だけで分析することが可能。高品質で探索的データ解析にも適する分析結果を得ることができる
結果企業や自治体の経営に関連する研究活動では、住民へのアンケート調査結果をJMPで分析し、有用な情報を引き出すことができた

公立大学法人兵庫県立大学(以下、兵庫県立大学)の大学院応用情報科学研究科には、社会システム工学の視点から地域政策や地域経営を学ぶことができる政策経営情報科学コースが設けられている。社会システム工学は、経済学、経営学、情報科学、環境科学さらにはシステム工学の複合的な分野から社会のデザインやマネジメントにアプローチして社会の変革を目指す学際的学問分野であり、統計学を活用してアンケート調査結果を分析し、さまざまな分野へ提言を行うことに貢献している。必然的に、研究テーマは幅広い領域をカバーすることになるが、共通して統計解析に最も活用されているのがJMPである。

感情や心に働きかける学問

兵庫県立大学は、兵庫県内にある3つの大学(神戸商科大学、姫路工業大学、兵庫県立看護大学)が統合し、2004年に誕生した総合大学だ。経済学部、経営学部、工学部、理学部、環境人間学部、看護学部の6学部に13の大学院研究科、4つの附置研究所を擁し、公立大学としては国内有数の規模を誇る。地域における「知の拠点」として、地域に支えられ、地域に開かれ、地域に貢献できる大学を目指している。


3大学統合の象徴として新設された研究科に、大学院応用情報科学研究科がある。同研究科には、情報科学技術の応用に取り組む政策経営情報科学コースおよびヘルスケア情報科学コース、そして情報化社会での安全性・信頼性に関連するテーマに取り組む高信頼情報科学コースを設置。次代のICT社会を担う高度専門家を育成することを目的とする。工学部、理学部、経済学部、経営学部などの学部からの進学者に加え、公務員や看護師や情報通信関連企業の社員などの社会人や留学生など、多様なバックグラウンドを持つ学生が集い、博士前・後期課程の約120人が学んでいる。アメリカのカーネギーメロン大学の大学院情報セキュリティ研究科との間のダブルディグリープログラムも研究科の特徴の一つである。


その応用情報科学研究科において、経営情報学領域の研究で成果を上げているのが兵庫県立大学 応用情報科学研究科 教授 有馬 昌宏氏だ。有馬氏の研究室では、ICTが企業や地域社会に及ぼす影響を、統計データや住民意識調査、企業調査などのアンケート調査によって分析し、組織経営における情報システムの果たす役割について、その課題と可能性について研究している。研究テーマは幅広く、たとえばICTが文化・芸術の需要に及ぼす影響も考察の対象としている。

有馬氏は、「工学が物理的に世の中を変えるのに対して、社会システム工学は社会を構成する人や組織に働きかけて社会をより良くしようとする学問です。人の感情や人の意識に働きかける必要があるため、アンケートによる意識調査は極めて重要です」と語る。

きれいな回答を集めやすくする方法論が大切に

有馬氏がJMPを使い始めたのは2000年ごろ。それまでは、主にSASを活用して研究活動に必要な統計解析を行ってきた。有馬氏は、「プログラミングを用いた高度な統計解析がSASの長所とすれば、JMPは、ほぼマウスの操作だけで簡単に解析できるのが特長です。JMPは、プログラミングが不要なので、正しいデータさえあれば、最も使いやすいのです」と話す。

企業や自治体の経営に関連する研究活動では、現状の把握、問題の所在の解明、政策の有効性の確認において必然的にデータを扱うことになる。データ分析の結果から有用な情報を引き出すためには、統計解析の理論を理解した上でデータ解析ツールの操作に習熟しなくてはならない。このため、有馬氏が教鞭を執る経営系データ解析の講義では、JMPを使った統計解析の基礎から応用までを徹底して指導する。政府統計などの既存データの活用やアンケート調査に伴う調査票の設計、サンプリング手法、実査に伴う問題やノウハウ、データのクレンジング、データ変換、ビッグデータ対応までをカバーする。

有馬氏は、「アンケート調査で集めてくるデータは汚くなりがちです。特に、紙やFAXで集めたデータを入力する際にはミスも起こりますし、中には、信憑性の疑わしいものも混ざっています。このため、調査票の設計では質問を厳選し、きれいな回答を集めやすくする方法論について教えています。きれいなデータを集めれば、あとはJMPが分析品質を保証してくれますから」と話す。

有馬研究室では、2006年に地域ポータルサイトの利用者となる伊丹市の住民が、どのような情報を、どのような形式で、どの組織を通じて提供されることを望んでいるかを定量的に評価することを目的としたアンケート調査を実施。コンジョイント分析を適用し、運営組織・提供情報・費用負担の選好構造を明らかにした。

具体的には、「行政情報の提供内容」「利用料金」「ポータルの運営組織」の3属性、4水準からなる12のプロファイルを提示し、諾否評価、5段階評定評価、順位評価の3つの回答方式で展開。3つの回答方式に応じたロジットモデルで効用関数の係数を推定した結果、それぞれの推定結果に大きなズレがないことがわかった。

有馬氏は、「コンジョイント分析を行うための回答方式としては、面倒なランクロジット・モデルを用いる順位付け評価法ではなく、回答者が直感的に答えられる諾否評価(2項型選択法)でも選好構造の推定結果に大きな違いをもたらさないデータを確保できるという1つの知見を得られました」と語る。

顕示選好データと表明選好データを融合

こうした知見をもとに取り組んでいる研究テーマが、ビッグデータ時代における表明選好データと顕示選好データの活用だ。アンケート調査で得られるのが表明選好データであるのに対し、POSなどのビッグデータは顕示選好データが膨大に集まったものだ。表明選好データは、「買う」と言われても本当に買ってくれるかどうかわからないのに対し、顕示選好データでは、だれが、いつ、どの店舗で、どの商品を、いくらで、いくつ「買った」という事実がわかる。ただ、顕示選好データでは、なぜ購買に至ったかがわからないため、表明選好データで補完する必要がある。

有馬氏は、「ビッグデータ時代でも、この両方のアプローチが必要ですし、優れた表明選好データを得るためには、調査票の設計や回収したデータのクリーニング・クレンジングが肝になります。今後も、消費者や住民の選好構造をより深く理解し、企業や自治体の経営に生かすためのコンジョイント分析の可能性について研究を続けていきます」と話す。

有馬氏は、GPS機能を使って現在地が各種のハザードマップと照合して”危険な場所”であるかどうかを確認できるスマートフォンアプリの開発にも取り組んでいる。近く、全国の自治体を対象にハザードマップのオープンデータ化についてのアンケート調査を行う計画で、そのデータ解析においてもJMPが大きな役割を果たすことになりそうだ。

※ 本事例に記載の内容は2015年11月時点のものです


JMPは、ほぼマウスの操作だけで簡単に解析できるのが特長です。JMPは、プログラミングが不要なので、正しいデータさえあれば、最も使いやすいのです
有馬 昌宏 氏

兵庫県立大学 応用情報科学研究科
教授

リンク
お問い合わせ