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公開日: 11/25/2021

Image shown here構造方程式モデルの概要

「構造方程式モデル」プラットフォーム(SEM; Structural Equation Models)では、さまざまなモデルをあてはめることができ、また、それらのモデルにおける変数間の関係についての仮説を検証することができます。モデルに含まれる変数には、観測されるもの(顕在変数)と、観測されないもの(潜在変数)があります。構造方程式モデルは、社会科学や行動科学の分野でよく利用されます。

このプラットフォームでは、デフォルトでは、(標準化したデータに対するモデルではなく)平均パラメータと分散パラメータを含むモデルがあてはめられます。「構造方程式モデル」プラットフォームでは、モデル作成の画面が表示されます。この画面において、作成中のモデルをいくつかの観点からチェックできます。さらに、モデルを作成する途中で、モデルの識別性に関する情報が表示されます。推定できないであろうモデルに対しては、実行前に警告が表示されます。

1つまたは複数のモデルをあてはめた後、それらのモデルと2つの基本モデルを「モデルの比較」レポートで比較できます。基本モデルには、「無構造モデル」(無制約モデル; unrestricted model)と「独立モデル」の2つがあります。「無構造モデル」は、指定されたすべての顕在変数に関して、すべての平均パラメータ・分散パラメータ・共分散パラメータを仮定したモデルです。無構造モデルは、データにまったく構造を仮定しない飽和モデルです。一方、「独立モデル」は、指定されたすべての顕在変数に関して、すべての平均パラメータと分散パラメータだけを仮定したモデルです。独立モデルでは、顕在変数間の共分散はゼロに固定されます。そのため、かなり制約されたモデルです。

「構造方程式モデル」プラットフォームでは、完全情報最尤法(FIML; Full Information Maximum Likelihood:Finkbeiner 1979)によってモデルを推定します。完全情報最尤推定は、ランダムな欠測が多くの割合で生じている場合でも、観測されたデータから得られるすべての情報を用いて、モデルを推定します。

構造方程式モデルの詳細については、SAS Institute Inc.(2020a)の「CALIS Procedure」章、Bollen(1989)、Kline(2016)を参照してください。

メモ: 「構造方程式モデル」プラットフォームで推定されるモデルには、すべて平均構造が含まれています。この平均構造は、リストでは「Constant」項として示されます。観測変数ごとの平均パラメータを設定したくない場合は、デフォルトの平均構造のように、平均パラメータを制約なく推定できるようにする必要があります。

モデルの種類

ここでは、「構造方程式モデル」プラットフォームであてはめることが可能なモデルの種類について説明します。

パス分析は、観測変数間の関係を表すモデルです。単純なパス分析は、分析者が興味をもっている構成概念それぞれが1つずつの顕在変数で測定されている時の分析です。パス分析の最も単純なモデルは、XでYを予測する標準的な単回帰モデルでしょう。「構造方程式モデル」プラットフォームでは、単回帰モデルよりも複雑なモデルを指定できます。たとえば、仮説や過去の調査から、変数ZがXYの間の媒介変数になっていると仮定できるとします。言い換えると、XがZを予測し、ZがYを予測できると仮定するということです。つまり、XYという直接的なパスは、モデルにZを含めないときにしか見られないのかもしれません。「構造方程式モデル」プラットフォームでパス分析を実行する手順は以下のとおりです。

1. 起動ウィンドウで、モデルに含める顕在変数(観測変数)をすべて選択して[モデルの変数]をクリックし、[OK]をクリックします。

2. 「モデルの指定」レポートで、「矢印の元」から説明変数を、「矢印の先」からその説明変数に対応する応答変数を選択し、一方向の矢印ボタン(「→」のボタン)をクリックします。

メモ: 外生変数(矢印「→」の先には指定されていない変数)に関しては、「外生変数の相関がゼロである」という仮説を検証したい場合を除き、それらの間の共分散は自由パラメータに設定することが一般的です。変数間の共分散は、双方向の矢印ボタン(「←→」のボタン)で指定できます。

確証的因子分析(確認的因子分析, CFA; Confirmatory Factor Analysis)では、測定モデルの一種をあてはめます。確証的因子分析は、調査票の質問項目を開発するときや、構造回帰モデルをあてはめる前の準備段階でよく使用されます。「構造方程式モデル」プラットフォームで確証的因子分析モデルのあてはめを行うには、以下の手順に従います。

1. 起動ウィンドウで、モデルに含める顕在変数(観測変数)をすべて選択して[モデルの変数]をクリックし、[OK]をクリックします。

2. 「モデルの指定」レポートの「矢印の先」で、ある1つの潜在変数から影響していると仮定する、複数の顕在変数を選択します。

3. 「矢印の先」リストの下のボックスに、潜在変数に対する任意の名前を入力し、Image shown hereボタンをクリックして潜在変数を追加します。

4. この手順を繰り返し、モデルに含めるすべての潜在変数を指定します。

なお、「構造方程式モデル」プラットフォームでは常に平均構造が含められるので、観測変数はすべて、「平均/切片」リストに「Constant」項からの矢印があります。また、潜在変数を含むモデルは、自動的に識別されるような設定がなされています。潜在変数を含むモデルが識別できるように、デフォルトでは、1番目の顕在変数に対する負荷量が1に固定されています。また、デフォルトの設定ではなく、潜在変数の分散を1に固定することもできます。なお、通常の単純な確証的因子分析モデルならば、すべての潜在変数の間に共分散を仮定することもできます。そのような共分散を仮定するには、「矢印の元」および「矢印の先」ですべての潜在変数を選択し、双方向の矢印ボタン(「←→」のボタン)をクリックします。

構造回帰モデル(SR; Structural Regression model)は、潜在変数を含むパス分析としても知られます。構造回帰モデルは、確証的因子分析(CFA)をまず行って妥当な測定モデルを決めたあとに、よく使用されます。構造回帰モデルでは、潜在変数の間にある特定のパターンを検証できます。確証的因子分析では、潜在変数間の効果に方向性を仮定しません(たとえば、すべての潜在変数の間に共分散を仮定します)。一方、構造回帰モデルでは、効果の方向性を仮定します。たとえば、管理者にリーダーシップ(「Leadership」)があるほど、チーム内の葛藤(「Conflict」)が少なくなるとともに、職場での社員の満足度(「Satisfaction」)が高まるという仮説のもとでは、潜在変数の「Leadership」が、同じく潜在変数の「Conflict」や「Satisfaction」に影響するというモデルが考えられます。確証的因子分析を実行した後に、こうした方向性のある効果(回帰)を指定するには、以下の手順に従います。

1. 起動ウィンドウで、モデルに含める顕在変数(観測変数)をすべて選択して[モデルの変数]をクリックし、[OK]をクリックします。

2. 「モデルの指定」レポートの「矢印の先」で、ある1つの潜在変数から影響していると仮定する、複数の顕在変数を選択します。

3. 「矢印の先」リストの下のボックスに、潜在変数に対する任意の名前を入力し、Image shown hereボタンをクリックして潜在変数を追加します。

4. この手順を繰り返し、モデルに含めるすべての潜在変数を指定します。

5. 「モデルの指定」レポートで、「矢印の元」から説明変数を、「矢印の先」からその説明変数に対応する応答変数を選択し、一方向の矢印ボタン(「→」のボタン)をクリックします。

潜在成長曲線(LGC; Latent Growth Curve)モデルは、反復測定データに対して、潜在的な軌道を仮定したモデルです。このモデルは、混合モデルにおける変量効果モデルと大変よく似ています。潜在成長曲線モデルでよく行うのは、成長率ゼロのモデルと、線形モデルを比較することです。成長率ゼロのモデルは、各個体に関して起点(ベースライン値)は異なっていても構いませんが、軌道は平坦になっています。一方、線形モデルは、各個体に関して、起点と、経過時間に対する傾きが両方とも、異なっています。さらに、データが十分にある場合は、これらのモデルを2次式モデル(各個体に関して、起点、経過時間に対する線形的変化、2乗の変化が異なるモデル)と比較することもできます。「構造方程式モデル」プラットフォームで自分で潜在成長モデルを最初から指定することもできますが、以下のように簡単な操作で指定することもできます。

1. 起動ウィンドウで、モデルに含める顕在変数(反復測定された観測変数)をすべて選択して[モデルの変数]をクリックし、[OK]をクリックします。

メモ: 潜在成長曲線モデルに対するショートカットを使ってモデルを正しく指定するには、観測変数は一定間隔で測定されていなければいけません。また、時間順に並べておいてください。

2. [モデルのショートカット]オプションで[経時的データ分析]>[切片のみの潜在成長曲線]を選択し、[実行]をクリックします。

3. [モデルのショートカット]オプションで[経時的データ分析]>[1 次の潜在成長曲線]を選択し、[実行]をクリックします。

4. [モデルのショートカット]オプションで[経時的データ分析]>[2 次の潜在成長曲線]を選択し、[実行]をクリックします。

「モデルの比較」表に各モデルの適合度指標が表示され、それらの適合度指標をもとに最適なモデルを選択することができます。

条件付きの潜在成長曲線モデルは、上記の手順に従って、適切な成長の軌道を選択した後に使用します。この段階で、切片や変化率に対する説明変数を、モデルに加えることができます。それらの説明変数が、成長過程や変化に対する初期スコアを決める重要な要因かもしれません。条件付きの潜在成長曲線モデルをあてはめるには、起動ウィンドウにおいて、反復測定された顕在変数、および、潜在変数に影響を与えているであろう顕在変数を選択します。なお、以下の手順を効率良く実行するには、[モデルの変数]のリストにおいて説明変数が一番下にくるようにしてください。

1. [モデルのショートカット]オプションを使って、適切と思われる成長の軌道を選択します。このオプションを使用すると、潜在成長曲線モデルでの反復測定を表す部分に説明変数も加えられてしまいます。そこで、反復測定データの部分からそれらの説明変数を除外して、説明変数として正しく指定する必要があります。

2. まず、「因子負荷」のリストから説明変数を見つけ、それらを含む効果をすべて選択し、[削除]をクリックします。

3. 次に、「矢印の元」でその説明変数を選択し、「矢印の先」で[切片]または[傾き]を選択します。

4. 一方向の矢印ボタン(「→」のボタン)をクリックします。これにより、条件付きの潜在成長モデルが設定されました。

メモ: 説明変数が複数ある場合は、「矢印の元」と「矢印の先」でそれらの説明変数を選択して双方向の矢印ボタン(「←→」のボタン)をクリックし、説明変数間に共分散を設定してください。

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